だが、それにまったく対立する意見が持ち上がった。

 冷戦中に米国が日本を守ると強調したのは、実は日本を守ることではなかった。冷戦とは東西対立で、日本は西側の極東部門であり、米国は日本を守るのではなく、極東部門を守ったのだというのである。

 しかし、冷戦が終わり、米国は極東部門を守る責任がなくなった。だから、日本は米国から見捨てられる恐れがある。米軍が日本から撤退することもあり得る。そして米軍から見捨てられたら、日本の安全保障は極めて危うくなる。だから、対米関係を濃密にしなければならない。たとえば、日本が他国から攻撃されたときに米国に守ってもらうためには、米国が他国から攻撃された場合に日本も米国を守る必要がある。

 このことを強く主張したのが岡崎久彦、北岡伸一、田中明彦、中西寛、坂元一哉などの保守系の学者ら、そして政府、自民党であった。

 そして、その目標が集団的自衛権の行使容認であった。この目標を実現させたのは安倍晋三首相である。だから私は、彼らの目標は一応達成されたものと捉えていた。

 だが、実は、憲法を無視しても米国側の要望にとことん応じるということだったのだろうか。これはどう捉えても危険極まりない。

週刊朝日  2019年1月4‐11日合併号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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