「ニセ医学」を信じてしまった患者を救えない、“正論”医療の現実

連載「現役皮膚科医がつづる “患者さんと一緒に考えたいこと、伝えたいこと”」

大塚篤司週刊朝日#ヘルス
ゆっくり時間をかけて「こっちの治療のほうがいいんじゃない?」と提案できる医師でありたい(写真:getty images)
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ゆっくり時間をかけて「こっちの治療の...

 間違った医療情報に惑わされると、患者の健康に悪影響が出るかもしれません。医師が正義感をもって患者に正しい情報を伝えていくだけで、ニセ医学で苦しむ人たちは減るのでしょうか。京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が、「ニセ医学」との向き合い方について語ります。

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 今から50年前の1969年、アポロ11号は人類史上初めて月面着陸に成功しました。ニール・アームストロング船長の「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」という言葉はあまりにも有名です。それからしばらく経った2002年、メアリー・ベネット著『アポロは月に行ったのか?』が日本で出版され話題となりました。アポロは月に行ってない、「2001年宇宙の旅」で有名なスタンリー・キューブリック監督の指揮のもとスタジオ撮影で捏造(ねつぞう)されたとするアメリカの陰謀論。

 私がこの本を読んだ20代前半、今となっては恥ずかしいことですが、アポロは月に行っていない、そう思った時期もありました。その後、NASAや専門家が一つ一つ丁寧に反論し、現在は陰謀論そのものを知っている人が減っています。

 トンデモ医療・ニセ医学とは、根拠がなく明らかに間違っている医療情報のことを指します。アポロ11号の陰謀論と同じく、医学の専門的知識がない多くの方にとって、確実な効果をうたうトンデモ医療は魅力的に映ります。しかし、間違った医療情報を信じると結果的に自分の健康や生命を脅かすことになります。世の中の常識と思われていたことが実は間違っていた、この手の話には伝播力があります。ニセ情報を広めてしまうことで、自分の健康だけでなく他人の健康も脅かす加害者になりかねません。

 がんは放置しておけば治る、サプリで十分などといった明らかに間違っているもの。副作用を過大に心配するあまり、ステロイドを一切使わない、ワクチンを子供に打たせない、などの偏った理解。トンデモ医療・ニセ医学に時間とお金をかけた結果、健康被害が大きくなった患者さん、そういう話は医療従事者の間でよく耳にします。

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トンデモ医療・ニセ医学に対して必要なこと

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