「ニセ医学」を信じてしまった患者を救えない、“正論”医療の現実 (2/3) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

「ニセ医学」を信じてしまった患者を救えない、“正論”医療の現実

連載「現役皮膚科医がつづる “患者さんと一緒に考えたいこと、伝えたいこと”」

このエントリーをはてなブックマークに追加
大塚篤司週刊朝日#ヘルス
大塚篤司/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医

大塚篤司/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医

ゆっくり時間をかけて「こっちの治療のほうがいいんじゃない?」と提案できる医師でありたい(写真:getty images)

ゆっくり時間をかけて「こっちの治療のほうがいいんじゃない?」と提案できる医師でありたい(写真:getty images)

 当然、トンデモ医療・ニセ医学に対して、私たち専門家は正しい情報を毅然とした態度で発信していくことが求められます。国立がん研究センターや学会などの信頼できる組織、そして多くの専門家が、ニセ医学に対して間違いを指摘しています。こういった活動によって、ニセ医学に“新しく”だまされる人は減ります。

 しかし、すでにニセ医学を信じてしまった人たちに対するアプローチは異なります。間違った医療情報で苦しんでいる人たちは全て自己責任なんでしょうか。

 私がまだ20代の頃、勤務していた総合病院の近くには、「ステロイドを使わないで治す」とうたう、いわゆる「脱ステロイド」の有名な皮膚科があり、全国から重症のアトピー性皮膚炎の患者さんが集まっていました。

 標準治療を選ばなかった患者さんが選んだ「脱ステロイド」。私が勤めていた病院は、この脱ステロイドも合わなかった患者さんの一部が駆け込んでくる、そんな病院でした。

「健康食品に毎月30万円くらい使っています。今、『好転反応』で皮膚の調子が悪いので見てもらえますか?」

 毎週のように「根拠のない何か」を治療として実践している患者さんを前に、

「好転反応なんてものは医学的に存在しません。ステロイド外用剤は正しく使えば安全です。しっかり治療してください」

 と、私は時間をかけて説明をおこなっていました。

 そして、説明を受けた多くの患者さんは、ニセ医学から解放され、標準治療を受けることで症状が良くなりました……。

 いいえ、現実はそういうわけにはいきませんでした。

 実際は、私の医学的に正しい説明を受けた患者さんの多くは、二度と私の診察に来ることはありませんでした。

 なぜ?

 私はずっと考え悩み続けました。20代の私は自分が間違っていた部分に全く気がつけませんでした。

 ジョン・スチュアート・ミルは『自由論』の中で愚行権という概念を提唱しています。愚行権とは、他人から見れば愚かな行為でも本人が納得し周囲に迷惑をかけないのであれば誰にも邪魔されない自由のことです。トンデモ医療・ニセ医学を信じてしまうことを愚行と言い切ってしまうつもりはありません。現代の医学情報は莫大で難しく、一般の方にはわかりにくくなっています。正しい医学情報にたどり着くには、それなりの訓練と知識が必要です。そして、これこそ大きな問題なのですが、ニセ医学の発信者が医者である場合もあります。


トップにもどる 週刊朝日記事一覧

関連記事関連記事

このエントリーをはてなブックマークに追加
あわせて読みたい あわせて読みたい