このオキシトシンは、お母さんが赤ちゃんを抱っこする、カップルが抱擁し合うというようなスキンシップで分泌されます。マッサージやペットをなでるといったことでもいいのです。Yさんがリャンちゃんの首のあたりをマッサージすることで、リャンちゃんとYさんの両者にオキシトシンが分泌されていたはずです。

 もともとオキシトシンは分娩のときに子宮を収縮させる、授乳時に母乳の分泌を促進するといった働きが知られていました。とはいっても、男性にも分泌されるホルモンです。

 最近はこのホルモンの心に対する働きが注目されています。オキシトシンに反応する受容体が、心に関係した脳の領域の前頭前野と扁桃体にもあるのです。ですから、オキシトシンは心に関わる脳内物質として研究されるようになってきました。

 さて、認知症との関係ですが、オキシトシンの受容体はセロトニン細胞にもあるので、オキシトシンの分泌が高まるとセロトニン細胞が活性化するのです。それによりセロトニンの分泌が増加して認知機能が向上します。

 以前にセロトニンの分泌を高めるのでハグは認知症予防になると書きましたが、オキシトシンの面からみても、ハグはやはり有効なのです。今後、セクハラにならない範囲でハグに励むことにします(笑)。

週刊朝日  2018年12月28日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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