「ええ!?/馬鹿にゃのかこのオッサン/嫁へのプレゼントか? 娘へのプレゼントか?/絶対に嫌がられるぞ!/返品にゃんか嫌だ!/期待にゃんかさせないでくれ!」……しかし、おじさまの決意はまるで揺るがない。こうして、名無しのブサイクは、おじさま最愛の「ふくまる」として、新たな人生(猫生?)を歩みはじめる。

 しかし、このおじさまには、少々複雑な事情があるようだ。猫を飼いはじめた背景には、妻との約束があるらしいが、家には妻の姿がない。そして、いまはしがないピアノ教師として働いているが、かつてはかなり著名な演奏家だった模様。「ひとりでは行けなかった世界だ/妻がいたから行けたんだよ」というおじさまの言葉だけでは、詳しいことはわからないけれど、とにもかくにも彼が喪失感の中を生きていて、ふくまるとの生活が慰めになっているのは間違いない。

 一方のふくまるも、どうせ自分なんか愛されないという思い(もはやトラウマ)を、おじさまとの生活の中で徐々に癒やしていく。自分は可愛い。自分には愛される価値がある。おじさまとの生活は、そう思えるようになるためのリハビリだ。

 猫だからって無条件に可愛いわけではなく、おじさまだからって無条件に大人の余裕が備わっているわけではない。みんな傷ついているし、悩んでいる。そのことを猫マンガとして描いて見せたことが、本作の魅力だ。それでいて、人間に都合のよいフィクションに堕すことなく、リアルな猫あるあるを差し挟んでくるあたりも、バランスがいい。「何故自ら来たときは一緒に寝てくれるのに/連れてくると逃げ出すのだろう…/だが私は諦めない」といったセリフを猫あるあるとして読むのも楽しいのだ。というわけで、数多の猫マンガから何か一冊、となれば、まずは本作から読んでみることをオススメしたい。猫のリアルとフィクションを横断しながら楽しめる、本当に読み応えのある作品である。

週刊朝日  2018年12月28日号