<重労働の農業はメキシコからの移民や高齢者に依存している。「担い手不足の問題は以前からあったが、移民に厳しいトランプ政権下で好転が見込めないことが明確になった」とカリフォルニア州サリナスの農業関係者は話す><米国を中心に果樹の収穫ロボットなど「アグリテック」と呼ばれる分野の新興企業への投資が広がっている>という。

 これがあるべき姿だ。人手不足ならば、経営者は機械化で生産性を向上させる。人手不足なのに機械化を進めず、「外国人の受け入れ拡大」とその場しのぎの対応をとるならば、日米農業の生産性はますます差がつく。人手不足は機械化の好機ととらえるべきだ。

 外国人は不安定な労働力とも言える。円安が進めば、途端に母国に集団で帰る恐れがある。月20万円を稼ぐ外国人の収入は1ドル=100円の時に2千ドルだが、200円の円安になると1千ドル。母国通貨建て収入が減って家族への送金が減り、日本で働く魅力も薄れる。

 外国人が一斉に母国に帰ると人手不足倒産も起きるだろう。どんなことがあっても逃げない、機械へのシフトこそが今重要なのだ。

 今回の法律の最大の問題点は、「移民にどんなスタンスをとるか」について国民的議論がないままで、その場しのぎの対応をとることだ。その結果、移民や外国人労働力の受け入れ問題が迷走すると思っている。

週刊朝日  2018年12月28日号

著者プロフィールを見る
藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

藤巻健史の記事一覧はこちら