「まあまあ、おまえたち」

 と三毛婆さんがいう。

「モフモフだって、ほんとに幸せかどうかわからないよ。人間の庇護下で、今ぬくぬくしてるだけ。人間の心変わりに怯えているかもしれない」

「それはないわ」とあたしはいった。「それはない」とサブローもいった。

 あいつらなにも考えず、ただぬくぬくしてるだけ。おなじなのに、あたしたちのために頑張ってくれたところを見たことがない。あいつら、あたしたちを、おなじ猫だなんて思っていない。

「でもさ、でも。世の中がひっくり返って、いちばん多数の我々が、いちばん幸せになるなんてこと、起きないかな」

 あ、雪が降ってきた。

<クイズ、人間は何の喩えでしょう。答えは複数>

週刊朝日  2018年12月28日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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