こうして基盤が固まった年度三田会は、もはや揺るがない。卒業50年には大学から入学式に招待され、25年のときと同様、寄付金を集める。功成り名を遂げた後だから金額も多くなる。今年50年を迎えた「1968年三田会」は、例年より多い約6500万円を集めた。会を率いるのは、佐治信忠・サントリーホールディングス会長だ。

 10年ごとの当番がある年度三田会が先輩後輩をつなぐ「縦糸」とすれば、全国各地で塾員がつながっていく「横糸」の役目を果たすのが地域三田会だ。「参加者の半分が65歳以上」と高齢化を指摘する声も聞くが、塾員たちが挙げるのは大学側の「面倒見の良さ」である。名簿管理などを行う「塾員センター」が、さまざまな支援をしてくれるのだ。

「新たに三田会を作る場合は、守秘義務契約などを結べば対象地域に住む塾員リストを出してくれます。規約のひな型も用意されているし、組織強化やイベント開催など運営面での相談にも乗ってくれます」(地域三田会関係者)

 縦に横につながって結束力を強める三田会。創設者の教えを守り、同窓会を強くする、これだけの「インフラ」が整っていると、年齢が上がるほどに「慶應愛」が強まることもうなずけるのではないか。現在の「慶應→三田会」コースは、「『慶應愛』自動再生産システム」といってもいいほどである。

 こうした構図を基礎にさまざまな分野に進出していく各種三田会の姿は、まさに百花繚乱(りょうらん)の感がある。

 9月1日土曜日、帝国ホテル「富士の間」。一つの三田会としては異例の340人の大人数を集めたパーティーが開かれた。いま最も勢いのある三田会として知られる「不動産三田会」の30周年を祝う会だ。

 不動産三田会のすごさは親睦に「実利」を加えた点にある。不動産業は「情報、人脈が命」の割には、どこか相手を信用しきれない面が業界に残っている。その「信用しきれない部分」を慶應の信用で埋める。つまり三田会の仲間同士で取引をするのである。

 毎月の例会での「情報交換会」がその場になる。会員は「これは」という物件を持ち込み、売り込む。興味を持てば、懇親会などで詳細を聞き込んでいく。

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