現在、喘息の治療は進歩しています。発作で夜中に病院へ駆け込み、吸入と点滴を受けてそのまま入院を繰り返す患児は減っているそうです。吸入ステロイド薬で喘息発作をある程度予防できるようになったことが喘息の軽症化につながっています。幸い、私の喘息も二十歳を過ぎてから発作が起きることはなくなりました。

 当時、私は「プリックテスト」を受けました。プリックテストとは、36種類のアレルゲンエキスを針とともに皮膚に刺し、免疫反応を見る検査です。陽性になったアレルゲンを喘息の原因と考え、少量ずつ注射します。これはアレルゲン免疫療法(当時は減感作療法)と呼ばれるものです。

 アレルゲン免疫療法は、薬物療法とは異なる長期的な効果が期待されることから、2015年、本邦でもダニアレルゲンが気管支喘息の使用に認可されました。同年、日本アレルギー学会が「ダニアレルギーにおけるアレルゲン免疫療法の手引き」を作成。現在は、アレルゲン免疫療法は注射に加え、舌の下に投与し体内に吸収させる舌下免疫療法も行われています。

 私はアレルゲン免疫療法(その当時はおそらく臨床試験)を受けるため、車で1時間かかるアレルギー総合病院に通っていました。主治医の先生はサンタクロースのような優しいひげをたくわえた先生でした。喘息発作が起きるたび夜中に病院をあけてくれた近くの開業医の先生とアレルギー総合病院のひげの先生の影響で私は医者になりました。ふたりとも大好きなお医者さんでした。

 いつものように、喘息の発作を起こしてからの入院。喘息のコントロールがうまくいかなかったのか、私の入院は長引きました。母親は毎日来てくれるものの、一人で過ごす入院生活は小学生の私には心細いものでした。

 院内学級で、同じ喘息の友人たちと遊んでいたときのことです。私の体は突然ふわっと空に浮きました。後ろから誰かに持ち上げられ、そのまま肩の上に乗りました。ひげの先生でした。驚いた私を床におろして、にこっと笑いました。

次のページ
温かい手が救ってくれた