イメクラは秘密クラブ的な要素を兼ね備えているため、看板や掲示板を表に設けていないところが多い。ひそかに都会のワンルームマンションを借りて、電車の車内や学校の教室、病院の診療室など忠実に再現した店もある。内装にお金がかかるが、完全な個室であることが最大の売りなのだろう。完全予約制を採り入れているところが多いのもイメクラの特徴だ。リピーターが多い。

 だが仕事内容は精神的な要素が多いため、働く人にとってはハードと言えるかもしれない。

「S(サド)っ気の強い女性は向かないね。どちらかというと受け身の仕事だから。ストレスは結構たまるよ」

 イメクラに詳しい私の友人はそう話す。

 もちろん、恋愛は店の中だけ。店外デートは御法度である。個人的な交際にまで発展すると来店する必要がなくなってしまう。経営者は常にそれを心配しているのである。

 イメクラが人気を呼んだ背景には「AIDS(エイズ=後天性免疫不全症候群)」があるだろう。厚生省(当時)のAIDSサーベイランス委員会が、神戸市在住の29歳の女性をエイズ患者と認定したのは昭和62年1月17日。翌日付の朝日新聞朝刊は1面で報じている。神戸の盛り場で多数の日本人男性と性的交渉を繰り返していたという。女性は重体だったが、同月20日に亡くなる。世間は大騒ぎとなった。

「トルコ風呂」から名称を変えたばかりの「ソープランド」などと違い、イメクラでは、直接的な性行為がない場合が多い。当時の状況を現地で取材していた風俗ライター(68)は言う。

「エイズパニックは全国の盛り場に波及し、客は激減した。性産業が軒並み大打撃を受ける中、注目されたのがイメクラに見られるような、ソフトなサービスだったのです」

 ソープランド業界もあの手この手で安全対策に打って出た。「陰性」という証明書を持つ女性のみを相手にさせる「無菌プレイ」なるものも東京の吉原に登場。客のエイズ検査の費用を負担する店も現れたという。

 イメクラは、派遣型、店舗型など複数の形態で、いまも各都市で営業されている。秘密クラブどころか、ファッションヘルスが「イメクラ」と銘打って堂々と宣伝している例もある。女性の年齢層やコスプレの種類など、それぞれの店が特徴を競い合っている。写真撮り放題の有料オプションをつける店もある。

 冒頭に挙げた『眠れる美女』。老人の性と死、異常な愛の姿にたじろぐ人も多いだろう。発表されてから50年以上の歳月が過ぎたが、超高齢化社会に突き進むニッポンの未来を暗示するようでもある。男性機能を失った老人たちのためのイメクラが注目される時代が来るかもしれない。

週刊朝日  2018年12月14日号