中井貴一「三谷幸喜さんを同世代として誇りに思う」

菊地陽子週刊朝日
 俳優・中井貴一はスポーツ少年だった。小学生の頃は、暗くなるまで友達と外で遊んだ。音楽も好きで、家では「サウンド・オブ・ミュージック」のサウンドトラックがお気に入り。レコードの盤面がすり切れるほど聴いていた。「ドレミの歌」は英語で覚えた。

 恥ずかしがり屋だったので、音楽の時間に前のめりで歌ったような記憶はない。それなのに、ある日音楽の先生に呼び出され、無理やり合唱団に入らされ、ほどなくして日比谷公会堂で開催されたコンクールで、ソロパートまで歌うはめになった。恥ずかしさのあまり、「穴があったら入りたい」と思った。

 俳優としてデビューした当初は、レコードをリリースしたこともある。でも、人前で歌うことは、照れくさいし恥ずかしかった。ミュージカルも、観るものであって出るものではないと思っていた。そんな中井さんを、「ミュージカルに出ませんか?」と誘ったのは三谷幸喜さんだ。

「ミュージカルのような感じのものになるとは聞いていましたが、『日本の歴史』をやると知ったのは稽古が始まる3カ月ほど前です(笑)。1700年の歴史を7人の俳優が演じるので、1人最低8役。コーラスやバックダンサーも7人でやります。稽古中に誰かがステージに出ていない場面があると、“空いてるね、じゃ、この役やって”と三谷さんに出番を増やされる。ありがた迷惑ですが、マンネリ化していくことへの危機感が、三谷さんの中にあるんでしょう。三谷さんと僕は同い年で、齢60が目の前です。だからこそ、限界を作らないように生きていこうという三谷さんからのメッセージであり、愛のムチだと、今は思えるようになってきました(笑)」

 38年の俳優人生で初のミュージカルへの挑戦。稽古では、恥ずかしい思いもずいぶんしたという。

「僕らの仕事って、毎回ゼロからのスタートだから、一つの仕事で何かしらの目標を達成できても、役が変われば、それまでの経験は何の役にも立たなくなる。38年間、俳優として経験を積んできたからといって、前の役を越えられる保証はどこにもないんです。ただ、こんなに越えなければならないハードルの高い役とも、そう出会えるものではない。大変ですが、これを乗り越えられたら、この先10年、15年の俳優人生が変わるような気がするんです」

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