『カジノ幻想「日本経済が成長する」という嘘』の著者で、静岡大学人文社会科学部の鳥畑与一教授はこう批判する。

「国内外から万博に来たお客さんをカジノに取り込もうなんて、ひどい発想をするものだ。万博をカジノに誘う道具に使うなんてとんでもない話です。吉村市長は交通アクセス整備のために、カジノ企業から200億円負担させると言い出しましたが、最初にカジノありきだったことを露呈させています。しかし、IR推進法のうえでは、カジノやホテル、エンターテイメント施設などIR区域以外のインフラ整備にカジノ業者が出資する義務はないのです。ただ、交通アクセスの整備をすれば、それだけ地元住民からカジノで巻き上げやすくなるともいえます」

 あからさまに“カジノマネー”頼みだったことを公言したようなものである。松井知事も「大風呂敷を広げ過ぎた。日本の総力を挙げて頂かなければ実現不可能だ」などとうそぶき、政府に全面協力を求めている。

 地元・大阪の自民党関係者がこうため息をつく。

「党中央と違って、地元の自民党市議や県議たちは万博とIRのダブル誘致を、維新が手柄にすることを強く警戒しています。維新はいまだに都構想の亡霊に憑かれており、万博決定で都構想の必要性が高まったなどと言い始めています」

インフラ整備にしても儲かるのは、中央のゼネコンなど一握りの大企業だけだ。大阪府は99.6%が中小企業で、万博やカジノの恩恵に与ることはないのではないか。

いや、むしろ弊害のほうが大きいと指摘するのは、前出の鳥畑教授だ。

「シンガポールのIRの例を見れば明らかですが、カジノがIR全体の8割の利益を上げています。大阪にできるIRの売上が年間1兆円規模とすると、IRから車や電車で1~2時間の関西圏から5千億円程度を吸い上げると考えられる。つまり、そのぶんの消費がカジノに奪われるわけで、マイナスの経済波及効果が広がっていくのです。関西経済が地盤沈下しながら、カジノが繁栄することになります。そんな事態になることを大阪府や市は推進していいのでしょうか」

 万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」「多様で心身ともに健康な生き方」などと美辞麗句に飾られているが、同時に大量のギャンブル依存症者が発生する問題も懸念されるのだ。

 安倍政権は20年東京五輪後の景気浮揚策として、万博とIRの誘致に余念がなかった。政府は万博が実現した暁には、途上国など約100カ国に約250億円を支援する計画をブチ上げ、世界に誘い水を撒いた。その結果、大阪は再びとんでもない「負の遺産」を背負い込むことになるのではないか。

(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日オンライン限定記事