岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など
岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など
古代人にとって酔いは異界へのトリップにも感じられ、非常に宗教的な効果をもたらしたことであろう(写真:getty images)
古代人にとって酔いは異界へのトリップにも感じられ、非常に宗教的な効果をもたらしたことであろう(写真:getty images)

 感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説する。

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 少し化学のことは忘れて、歴史の話をしよう。

 ワインが初めてできたのは今から数千万年前といわれる。おそらく、天然のブドウが偶然アルコール発酵されたというのが、その起源であろう。偶然がもたらした産物というわけだ。

 人間の手で、ワインが意図的に製造されるようになったのは、今から1万年前くらいと考えられている。トルコのチャタル・ヒュユク、シリアのダマスカス、レバノンのビュブロス、あるいはヨルダンで紀元前8000年ごろの石器時代の地層からブドウの種子が見つかっている。ただし、それが「栽培されたブドウ」なのか、「野生のブドウ」なのかはわかっていない。

 酒類の原料はたくさんある。コメ、麦、そしてブドウ。さまざまな生物がアルコール発酵によって酒になる。しかし、最も原始的な酒は果実酒だったと考えられている。採取した果物を貯蔵していたら、そこで発酵がはじまり自然にアルコールとなった。それを飲んだ人間が、果実酒を楽しむようになったと推測されている。そして、その果物のひとつがブドウであり、ワインはそうして作られたのであろう。

■発酵食品の多くは「カビ」のおかげでつくられている

 ワイン酵母はSaccharomyces cerevisiaeという名前の真菌だとすでに述べた。真菌とはいわゆる「カビ」のことだ。カビというと、ひょっとすると悪いイメージをお持ちの方もおいでかもしれない。しかし、実はカビは、人間にとってよいこともたくさんしている。発酵食品の多くは「カビ」のおかげで作られているからだ。

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岩田健太郎

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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