最初に出かけたのはバルセロナを州都とするカタルーニャ州の日本事務所(東京都港区)だ。ここで開業する場合の注意事項をまとめた冊子をもらい、バルセロナの、日本人スタッフがいる法律事務所を紹介してもらった。

「やるべきこと、用意する書類を指示してもらいました。豆腐屋を開業するには『自営業』のビザが必要なのですが、それには現地法人を設立して当時の相場で12万出資したほうがいいと。そこで夫婦でバルセロナに行って法人を設立したあと、店舗として借りる物件を探し回りました」

 そして3週間後に店舗を決定。必要書類をすべてそろえ、帰国後スペイン大使館にビザを申請した。晴れてバルセロナに豆腐店をオープンしたのは、清水さんが63歳のときだ。開業総費用は約4千万円。店は今年で9年目を迎える。海外で今まで店を営んでこられた秘訣は一体何だろうか。

「年金というセーフティーネットがあったことにももちろん助けられましたが、一番の理由は健康だったことだと思います」

 そして、海外移住の成功のポイントとは?

「まず『海外移住に何を求めるのか?』を明らかにしてから行動することです。暮らしやすさを求めるのであれば、物価が高いスイス、北欧、ドイツは避けたほうがいいかもしれません」

 また初めから海外での新事業に取り組むのは、やはりハードルが高すぎるので、

「移住したい国や地域が決まったら、まず3カ月のロングステイをしてみてもいいでしょう。その地に実際に暮らしてみれば、自分が求められること、自分がやれることは自ずからはっきりと見えてくるはずです」

(赤根千鶴子)

週刊朝日  2018年12月7日号より抜粋