「体の中心にある、体幹の筋肉は鍛えにくいとされていますが、ひざ裏を伸ばして姿勢がよくなることで、日常生活の動きの範囲内で鍛えることができます」

 体幹が鍛えられれば、腰痛や腸のトラブルも解決するという。体幹が衰えると、腹圧が低下。その結果、骨盤が後ろに倒れ、腰に負担がかかり、腰痛が起こるようになっているからだ。

「腹圧の低下によって、腸への血流が滞り、便秘や下痢などの腸トラブルの原因にもなるのです」

 高齢者に多い転倒による骨折も、ひざ裏の筋肉を伸ばすことで予防できる。

「筋肉のバランスがよくなるので、転倒しにくくなりますし、段差などにつまずいたときのとっさの体勢がとりやすくなるのです」

 また、姿勢がよくなると、呼吸も深くなる。それによって血流が改善すれば、免疫力アップや、自律神経の乱れを整えることにもつながるという。

「肺は本来ゴム風船のように膨らむのですが、背中が曲がると呼吸が浅くなります。呼吸が浅いと、十分な酸素が取り込みにくくなり、血流が悪くなって代謝が落ちます。風邪などの病気にかかりやすくなるのです」

 血流の改善は、脳の活性化にもつながるはず。ひざ裏伸ばしに、複数の動作を同時に行うマルチアクションを取り入れた「ワン・ツー・スリー体操」は認知症予防の効果にも期待が高まっている。

「認知機能を測るテスト(HDS‐R)を、私のヨガクラスに通う高齢者に行いました。スタートから2カ月程度で、点数が向上。認知機能が高まっていることを、皆さん実感しています」

 ここ数年、「腸は第2の脳」と言われるようになり、脳と腸は密接な関係があるとされ、腸活もブームになっている。ひざ裏を伸ばせば、脳を活性化して、その結果、腸の環境を整えることにもつながるのではないかと川村さんは推測する。

「私はこの体操を続けて、2年後に大腸ポリープが改善しました」

 こうしたさまざまな効果によって、多くの人を悩ませる肥満の改善につながった人もいたそうだ。

「新陳代謝がよくなり、筋肉が鍛えられると体が軽くなります。すると運動量が増えます。さらに、自律神経の調子が整うので、過食や深酒を予防できます。ある50代の男性は、ひざ裏伸ばし体操を始めて半年で、7キロの減量に成功しました」

 現代人を悩ませる全ての不調に働きかけると言っても過言ではないひざ裏伸ばし体操。たった三つでよく、そのうち一つを1日5秒やるだけでも、効果があると川村さんは太鼓判を押す。

 代表的なひざ裏伸ばし体操は、「壁ドン」「壁ピタドローイン」「ワン・ツー・スリー体操」の三つ。運動が苦手な人でもポイントを押さえることができ、自宅でやることも可能だ。

「自分の体の状態に合わせて、できるところからやってみてください。三つすべてやっても、1~2分で終わります。意識するのは、ひざ裏の筋肉を伸ばすこと。人生100年時代、最後まで自分の足で歩き、楽しい人生を過ごしましょう」

(ライター・沢木文)

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