小山さんは発作を恐れて通勤できなくなったため、仕事を辞めざるをえなかった。今度こそはきちんと治したいと考え、8月、インターネットで調べた近所の周愛利田クリニックを訪れた。診察した院長の吉川和男医師は、パニック障害と診断した。

 パニック障害は20~30代で発症することが多く、日本人の2~3%がかかるといわれている。決して珍しい精神疾患ではない。

 パニック障害は、1980 年代に米国の精神医学会が作成した『精神障害の診断・統計マニュアル』で診断分類がついて、92年に世界保健機関(WHO)によって独立した病名として登録された。それ以前は不安神経症の一つに分類されていた。

 以来、日本でパニック障害が注目されるようになったが、それまでは、パニック障害は動悸などの症状が心臓疾患などに似ているため、患者は内科を受診することが多かった。内科で心電図などを使用して心臓を調べても異常は見つからないため、適切な治療を受けられない事例があったという。現在では、内科で心臓や血液検査をしても異常がない場合にはパニック障害の疑いがあるという認識が医師たちの間に広まってきているが、的確な診断のためには、専門の精神科医の診断を受けることをすすめる。

 パニック障害は、病気の進行にあわせて、あらわれる症状が次のように段階的に変化するのが特徴だ。

 まず、前触れなく突然、動悸や胸痛、発汗、めまい、吐き気といった「パニック発作」が起きる。高校生のときに小山さんを襲った症状がまさにこの発作だ。この発作は10分以内にピークに達する。恐怖のあまり救急車を呼ぶ人もいるが、30分程度すると自然と治まっていく。

 しかし、慢性化すると、また発作が起きるのではないかと考えるだけで不安を感じる「予期不安」が生じるようになる。このあとに発作が起きるとき「死ぬのではないか」という強い恐怖感をともなうことがある。

 さらに症状が進行すると、発作が起きたらどうしようという不安から、電車やエレベーターなどの閉鎖空間を恐れる「広場恐怖」に陥る。小山さんのように、外出がままならず仕事を失う場合もあり、日常生活での行動が相当な範囲で制限され、うつ病を併発する場合もある。

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自分の弱いところ見せたがらない傾向