そんな樹木希林が「家族」「建築」「ファッション」「生き方」等を語り、その言葉が待たれる人として存在感を示してきたときに、私が複雑な気持ちを深めたのは言うまでもない。例えば00年代の富士フイルムのCMで、樹木希林は本人として登場し「私は年を取るのが面白い」と美しい笑顔で話している。確かにこの樹木希林はかっこいい。でも一方でそれは「男社会」から「カッコイイでしょ、無欲の樹木希林」というのを見せられているようでもあり、私は戸惑ったのだった。あんなに「美しくない女」を笑ってきた罪滅ぼしを、「男社会」はまずしなさいよ、という思い。だいたい「男社会」が見せてきた「樹木希林問題」を私は未だに消化できてないんですけど、何もなかったような顔で微笑まれても困るよ!……身勝手な一般人のつぶやきである。

 樹木希林が亡くなった日、なぜか大原麗子のことを思い出した。渡瀬恒彦と離婚後、森進一と結婚するも「家庭に男が二人いた」と言った大女優。男に我慢せず、家庭を優先させず、自由に恋愛をし、圧倒的な美しさで芸能界の頂点に立っていた大原麗子は、晩年は病と孤独に苦しんだ。樹木希林とはほぼ同世代だ。簡単に比べるものじゃない。それでも樹木希林の重さの一方で、大原麗子の華麗な自由に憧れていた80年代の子どもとして、私は胸が詰まるような思いになる。この社会で女として生きること、その重さに、少しは馴れたはずなのに。

週刊朝日  2018年12月7日号

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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