【文豪の湯宿】「文学の神様」が好んだ温泉宿 妻の故郷・山形の…

鈴木裕也週刊朝日
横光が好んだ温海川沿いの部屋(当時)。戦後発売された小説『紋章』の印税前金3000円を使っての家族旅行だった
拡大写真

横光が好んだ温海川沿いの部屋(当時)...

 文豪たちの作品に登場する温泉宿を訪ねる連載「文豪の湯宿」。今回は横光利一の「旅館 瀧の屋」(山形県・あつみ温泉)だ。

【横光利一が好んだ温海川沿いの部屋の当時の写真はこちら】

*  *  *
「文学の神様」と称された横光利一は昭和2年に再婚した妻・千代の故郷・山形県鶴岡市の温海(あつみ)温泉を何度も訪れた。特に気に入っていたのが瀧の屋で、海外取材の後には必ず長期滞在して静養した。

 温海の朝市を好んだ横光は、「食べもせぬものまで矢鱈に買いすぎて細君に叱られた」と随筆に書き、原稿を執筆する際には「子供たちが騒いでも気にせず、集中していた」という逸話が宿に残っている。

 終戦直後に書かれた「夜の靴」には、結婚当初から毎年のように宿泊したこの宿を、夫婦2人だけで10年ぶりに訪れたことが記されている。

<温海へ着いたのは五時すぎだった。バスはどれも満員でやっと来たのは故障だ。雨の中をまた二人で歩いて瀧の屋まで行った>

 宿に着くとすぐ、新聞社からイベントに出席してほしいと頼まれ、拒否できずに妻を置いて外出。宿に戻るとすでに妻は床に就いていた。

<こうして十年目に巡って来た一刻の夫婦の夕さえ失った>

 落胆ぶりが伝わってくる。この翌日には子供たちも来宿し、家族水入らずの時を過ごしたという。(文/本誌・鈴木裕也)

■旅館 瀧の屋(りょかん たきのや)
山形県鶴岡市温海甲169

週刊朝日  2018年11月30日号

続きを読む

この記事にコメントをする

TwitterでAERA dot.をフォロー

@dot_asahi_pubさんをフォロー

FacebookでAERA dot.の記事をチェック