春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です
(イラスト・もりいくすお)
(イラスト・もりいくすお)

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「焦る」。

【画像はこちら】春風亭一之輔氏がピンチ!

*  *  *

 孔子様曰く、「四十にして惑わず」だそうな。私も年が明けたら、すぐ四十一。あと2カ月でその境地へたどり着けるのか。時間がない。焦る。惑う。そして頭を抱える。

 先日、日々の疲れを癒やそうと行きつけの整体へ。うつぶせ状態で施術されていると、お尻の割れ目にタラリと冷たいものを感じた。

「やっちゃったか……」

 飲みすぎた翌日は午前中に7、8回はトイレへ行く。私はおなかがユルいのだ。“決壊”したかもしれない。おなかはユルいが、鼓動は速い。惑う。焦る。

 その日は女性の整体師さん。男ならいいって訳じゃないが、初対面の異性に己のう○この臭いを嗅がれるのはできれば避けたい。腐っても芸人、漏らしても噺家だ。それくらいの色気は持っていたい。施術台の上で、うつぶせ寝で、見知らぬ異性と二人、密室のなかで脱糞(仮)。かなりのピンチである。落ち着け、俺(40)。念のため括約筋を締めながら「汗か? う○こか? う○こか? 汗か?」と、ゆっくりと自問自答。経験上、こんなときはたいてい汗なのだ。「なーんだ、汗か!」ってことはたびたびだ。月に4、5回。多いな。が、今回は整体師さんが腰を押した弾みでおならが出たような……気がした。うとうとしてたので「気がした」としか言えないが、その瞬間に冷たいものが流れたような……気がするのだ。いや、それは現に今、尻の狭間をつたわって、ひんやりと「ボクハココニイルヨ」と主張している。「気がする」ではない。おならとともに参上するならば、冷たいソレはまぎれもなく『彼奴』ではないか?

 さっきまで「だいぶ張ってますねー!」だのおしゃべりしていた整体師さんが急に無口に。嗅いだ? もう嗅いだか? 臭いは私の鼻までは届いていないが、条件はほぼ揃いつつある。

「背中もだいぶきてますねー」

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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