原 晃 医師(筑波大学病院 病院長/日本聴覚医学会 顧問(前理事長))
原 晃 医師(筑波大学病院 病院長/日本聴覚医学会 顧問(前理事長))
聞こえのチェックシート(週刊朝日2018年11月30日号から)
聞こえのチェックシート(週刊朝日2018年11月30日号から)

 補聴器にまつわるさまざまな誤解が存在するのはなぜなのか。筑波大学病院病院長で、日本聴覚医学会顧問(前理事長)の原晃医師は、その理由として「補聴器の供給(販売)体制が整っていないこと」を挙げる。

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「例えば、眼鏡を購入するときは眼科を受診し、視力検査などをした上で眼科医に処方箋をもらい、それを持って眼鏡販売店に行くのが一般的になってきているでしょう。しかし補聴器については、まず耳鼻咽喉科を受診し、聴力検査をした上で診療情報提供書を持参して補聴器販売店に行く、という流れができておらず、多くの人がそれを認識していません。また、販売に関しての罰則規定などもなく、補聴器についての専門知識や技能を持たない人が販売している販売店もあります」(原医師)

 補聴器は医療機器であり、多くの先進国では補聴器を販売する人は国家資格を取得する必要がある。しかし日本では、販売に関して国家資格は必要ない。日本耳鼻咽喉科学会では、「補聴器を購入する際は、補聴器相談医を受診した上で、認定補聴器技能者のいる認定補聴器専門店で購入すること」を勧めているが、実際には認定補聴器技能者のいない補聴器販売店も多く存在し、眼鏡店や通信販売などで購入することもできるのが実情だ。

「このような状況を変えるために、2016年度から厚生労働省の委託により、全国各地で補聴器販売者を対象とした知識習得、技能向上のための研修がおこなわれていますが、改善はまだ中途段階といえます」(同)

 済生会宇都宮病院の聴覚センター長の新田清一医師は、医療機関と販売店では立場が違うと指摘する。

「補聴器を用いて聞き取りを改善させるには、ある程度の大きさの音を入れる必要がありますが、最初はそれをうるさく感じます。医療機関では、うるさいから音を下げるのではなく、常時装用を継続して脳を慣らしていくことなど適切なトレーニング方法を医師が医学的に説明します。販売店は医療機関ではないので、医学的説明はできません。また販売店の中にはお客さんの訴えを優先するためか、『うるさい』と言われると音を下げてしまうところが少なくないようで、そうするとより聞き取りが悪くなってしまいます」

 補聴器は管理医療機器で、補聴器診療は医療であるため、医学的な対応が重要なのだ。

 また、原医師は「『購入したけど使えなかった』『高額な補聴器をいくつも買わされた』などという場合には、黙ってあきらめるのではなく、消費生活センターに連絡してほしい」と話す。利用者の声の集積により制度が整う後ろ盾になる可能性があるという。

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