「国立大と併願する受験生が多いことも意識して、奨学金の金額を決めた。大学が夜間学部として創設された経緯もあり、学生の負担を抑え、地方からも広く学生を集めたい思いが強い」

 今春、同大に進学した静岡出身の女子学生は「奨学金をもらえたことで、部活に打ち込めている」という。ラクロス部で週4日、活動する。将来は化粧品の開発職に就きたいといい、学業にも余念がない。女子学生もこう振り返る。

「親は費用の心配をさせまいと気丈に振る舞ってくれていましたが、国立大の授業料が安いので、その魅力も感じていたようです。私大の奨学金情報は親が熱心に調べてくれた。第1志望の東京理科大に給付奨学金ができたことを知り、安心した様子でした」

 自治体でも給付奨学金を新設する動きが出ている。

 沖縄県は16年に「沖縄県県外進学大学生奨学金」を創設。国際的に活躍できる人材育成を目的にし、文部科学省に「スーパーグローバル大学」として採択されている大学に進学することなどが条件。入学支度金30万円、奨学金月7万円などを受け取れる。卒業後、県内に就職する必要はない。県担当者はこう語る。

「自治体の奨学金は県内就職を条件とするものがありますが、沖縄では若者の仕事先の選択を制限してはいけないと考えた。海外や東京などでキャリアを積み、最終的に沖縄に戻ってきてくれたらと思っています」

 財団の給付型奨学金も注目だ。

 博報財団(東京都)は今年「博報教職育成奨学金」を創設し、小学校教員や中学・高校の国語科教員などを目指す大学生を支援する。国立大に進学する場合は月5万円、私大では月10万円を給付する。さらに、自宅以外から通学する場合は、月5万円を給付し、最大で年180万円の支援となる。

「教員になるためには多くの教職科目を履修しないといけない。だが、同時にバイトもたくさんこなす苦学生は少なくない。奨学金を給付することで、教員を目指す人の就学を支援し、優秀な教育者を育てたい」(財団担当者)

 人手不足に悩む建設業界だが、中堅ゼネコンのソネック(兵庫県)の「志・建設技術人材育成財団」は、卒業後、県内の建設系企業に就職を希望することなどを条件に奨学金を給付する。

 これまで紹介してきたように、奨学金の情報を入手すれば、大学選びの選択肢が広がり、将来の金銭的な負担を減らすことも可能だ。(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2018年11月30日号より抜粋

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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