今回も飛散がないとは言い切れないのだ。しかも、都の対応には疑問点がある。都は「除去作業中は建物ごとに6日に1回空気中の石綿濃度を測定する」としているが、測定時間はわずか4時間。1週間のうち大半の時間は測定しないことになる。しかも、結果が出るまでまる1日かかる。

 6日に1回のペースでは測定直後に工事ミスがあった場合、発覚するまで1週間以上はかかる可能性もある。しかも測定は施工業者任せ。都や中央区の職員が抜き打ちでやることはない。

 兵庫県立健康環境科学研究センター(当時)の元研究員で石綿除去に詳しい小坂浩氏はこう批判する。

「測定結果が出るまで1日というのは時間がかかりすぎです。現場に顕微鏡を持ち込んで確認するようにすれば、1時間もかからない。測定頻度を増やし、抜き打ち検査もするなど監視の目を増やすべきです」

 都は、「測定頻度が少なくても常時監視しているので問題ない」と主張する。粉じん濃度をリアルタイムで表示する「デジタル粉じん計(粉じん相対濃度計)」を使うことを想定しているようだが、本来粉じんの濃度が高い現場で使うこの機器では少量の漏れはチェックできないと小坂氏は指摘する。いくら「常時監視」を強調しても、実効性が伴わなければ意味がない。

 測定方法も問題だ。都は「分散染色法」というやり方を認めている。この手法は「(空気中の)微細なアスベストを精度良く計測しにくい」として、環境省が10年6月以降使用しないよう促している。

「今どき分散染色法を使うのは、石綿飛散を隠蔽(いんぺい)しようとしていると思われても仕方ありません」(前出の小坂氏)

 都の担当者は「施工計画を確認し測定が適正に行われるようにしたい」というが、業者が分散染色法を選ぶことは止められない。

 除去完了の基準がないことも大きな課題だ。業者は現場の写真などを撮って、工事が終わったことを報告する。都の担当者らが適正に除去されたのか確認する建前だが、検査手順も基準も存在しない。英国では完了検査に専門家が1週間以上かけることも珍しくないが、日本では1時間もかからないケースが目立つ。

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