アスベストを含む建材が吹き付けられている築地市場の鉄骨(「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」提供)
アスベストを含む建材が吹き付けられている築地市場の鉄骨(「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」提供)
築地市場のおもなアスベストの状況(週刊朝日2018年11月30日号から)
築地市場のおもなアスベストの状況(週刊朝日2018年11月30日号から)

 東京の食を支えてきた築地市場(東京都中央区)が閉じてから1カ月。約1万匹ともいわれるネズミの駆除が注目されたが、本当に危険なことが始まっている。過去最大級となるアスベスト(石綿)の除去工事だ。吸い込めば数十年後にがんの一種の中皮腫などにかかる恐れがある。飛散の監視は業者任せで、法制度や都の対応の不備も指摘されている。“死亡リスク”のある危険物質が、銀座を浮遊するかもしれないのだ。

【見取り図】危険レベルの高い場所がこんなに…築地市場のアスベストの状況

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 都は東京五輪開催前の2020年2月末までに、築地市場の計155棟すべてを解体しようとしている。問題はその約3分の1の55棟で石綿が使われていることだ。除去が必要な建物の壁や柱などの面積は計8万3500平方メートルを超える。そのうち飛散しやすく危険性が高い「レベル1」や「レベル2」が、約6万平方メートル(東京ドーム1.3個分)もある。

 石綿は天然の鉱物繊維で、細さは髪の毛の約5千分の1。浮遊していても目に見えない。安くて断熱性や耐久性に優れるため建設資材などに使われていたが、06年に使用が原則禁止に。吸引から発症まで長いため、「静かな時限爆弾」と恐れられている。厚生労働省の人口動態統計によると、中皮腫による死者は15年には1500人超に上り、ほとんどが石綿が原因とされる。

 都は周辺住民向け説明会などで、厳重に処理し飛散させないと約束してきた。近く除去工事が本格的に始まるが、技術的にかなり難しい現場というのが専門家の一致した意見だ。ある除去業者の幹部はこう明かす。

「築地市場の建物は屋外同然で石綿の劣化がひどい。高所作業もあって安全管理が大変なのに工期が短い。飛散しないよう養生を維持することも困難で、うちは受注を見合わせました」

 レベル1、2の除去は、作業場をシートで囲って隔離し、集じん・排気装置を設置した上で実施する。徹底した対策が求められているが、実際には漏れる場合が少なくない。厚労省が11~13年度に除去工事現場80カ所を調べたところ、2割弱で周辺への飛散があった。環境省の別の調査でも、10~16年度の53カ所のうち実に約半数で飛散があった。

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