【文豪の湯宿】“父の自殺”から解放され…久米正雄の愛した宿 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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【文豪の湯宿】“父の自殺”から解放され…久米正雄の愛した宿

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鈴木裕也週刊朝日

旅館 花屋/大正6年創業。6500坪の敷地に点在する、計1500坪分の木造建築が、棟ごとに渡り廊下で結ばれる。ほぼ全館が国の登録有形文化財に指定されている(長野県上田市別所温泉169)

旅館 花屋/大正6年創業。6500坪の敷地に点在する、計1500坪分の木造建築が、棟ごとに渡り廊下で結ばれる。ほぼ全館が国の登録有形文化財に指定されている(長野県上田市別所温泉169)

源泉掛け流しの大理石風呂。ステンドグラスが大正ロマンの雰囲気

源泉掛け流しの大理石風呂。ステンドグラスが大正ロマンの雰囲気

 文豪たちの作品に登場する温泉宿を訪ねる連載「文豪の湯宿」。今回は「久米正雄」の「旅館 花屋」(長野県・別所温泉)だ。

【源泉掛け流しの大理石風呂の写真はこちら】

*  *  *
 大正8年7月末、久米正雄は別所温泉を訪れた。目的は、この地に逗留していた作家仲間の葛西善蔵の“救出”だ。「改造」誌のために小説を執筆しているはずの葛西は、酒と芸者の放蕩三昧。原稿料では支払えなくなり、「新小説」誌に前借りした100円を届けるためだった。

 ところが、“ミイラ取りがミイラに”なり、一緒に遊んでしまう。1泊2食付き60銭の時代、100円は大金だが、それさえ使い果たしてしまい、久米は帰京後、自腹で支払った。

 とはいえ、約1カ月の別所滞在中、久米はただ遊んでいただけではない。7月31日には葛西と別れ、老舗宿「花屋」に移り、小説の取材をしていた。宿泊した花屋別邸の「花御殿」は久米の生家の家主の屋敷を移築したものだった縁もあり、元家主と面会した久米は、父の自殺の真相を聞き出した。この後すぐに、生まれ育った地を訪れたが、生家はすでに撤去された後だった。

 この取材をもとに、漱石にも褒められた短編「父の死」をさらに掘り下げた「不肖の子」を書き上げ、幼少時に受けた父の自殺という心の傷から解放されたと述懐している。(文/本誌・鈴木裕也)

■旅館 花屋(りょかん はなや)
長野県上田市別所温泉169

週刊朝日  2018年11月23日号


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