「きっかけは夫の『浪費するな』の一言です。子供がやっと10歳になったので、夏休みの間、子供を実家に預けて、中学の同級生たちと3泊4日の旅行に出かけたんです。帰宅したら、夫がむくれてしまって。私にも楽しむ権利があるはずと口論になり、『それなら離婚するわよ。子供に会えないわよ』と切り出しました」

 それ以降、夫との対立が深まりそうになると、「離婚する」と口走る。

「離婚するつもりはないんですが、夫が私の主張を無視するたびに『離婚したら、子供に会えないわよ』の一言で夫は黙る。効果抜群です」

 前出の澁川さんは、このケースをこう分析する。

「子供を引き合いに出されると、ビビるのは夫です。イクメンパパが増えている今の時代に、夫が我慢を強いられるケースも少なくないです」

■悪びれることなく家出を繰り返す

「別居する」と言って家出を繰り返す妻も目立つようになった。10回や20回の家出はざらで、50回以上というツワモノ・菊池美和さん(仮名・37歳)は、その理由が「自分でもよくわからない」そうだ。

 家を出ると、短期賃貸マンションや友人宅を訪ね歩き、4~5日すると、ケロッとして帰る。夫の修二さん(仮名・39歳)は複雑な心境を次のように告白した。

「帰宅すると悪びれることもなく、リフレッシュしたようにすがすがしい表情の妻をなじれなくなります。50回以上家出をしても、不倫をしている気配もないし、男の部屋で過ごしてもいないようで。でも妻が何のために家出をしているのか、さっぱりわかりません」

 小学生の息子がいるが、家出を始めた当初は、悲しそうな表情を浮かべ、いつ帰ってくるかわからない母親に戸惑っていたが、最近は慣れてきたようで、「お母さん、今回はいつもより早く帰ってきたね」とケロッとしている。修二さんの両親は離婚を勧めるが、妻のプチ家出を容認するようになった。

 前出の澁川さんはこう分析する。

「20年ほど前に、土日だけ夫婦の『週末婚』が出現したときは賛否両論でしたが、結婚生活もバラエティーに富み、様々なスタイルの夫婦を社会が受け入れるようになりました。プチ家出妻のケースもその一つです」

(作家・夏目かをる)

週刊朝日  2018年11月23日号より抜粋