米中貿易摩擦の背景には、両国のハイテク戦争がある。トランプ大統領の補佐官で通商政策担当のナバロ氏が「中国は将来の産業を不当に独占しようとしている」と語ったように、ハイテク分野で両大国はせめぎ合う。

 今年7月、中国人男性がFBI(米連邦捜査局)に秘密漏えいで逮捕される事件があった。男性は米アップルで自動走行技術の開発に従事していたが、中国の自動車会社に転職するために退職し、帰国しようとしていた。この事件は、両国間のハイテク戦争が影響している。

 トヨタは中国にもトラウマがある。80年代、中国進出の誘いを断ったためにトウ小平氏(※トウは「登」におおざと)が激怒。メンツを重んじる中国政府は以来、外資では中国進出を果たしたVWを最も優遇し、トヨタを冷遇した面がある。雄安新区への進出は、それを挽回するチャンスでもある。

 トヨタはグループ企業も含めた総力戦での巻き返しをねらって、中国市場対応を最重要プロジェクトの一つに位置づけている。6月には中国担当役員を急きょ交代させ、豊田社長の側近中の側近で、グループの役員人事を仕切る上田達郎専務が総務・人事本部長、事業企画部統括との兼任で中国・アジア本部長に就いた。

 生産能力を20年代前半までに現状の約2倍の200万台に拡大する計画。習近平国家主席肝煎りプロジェクトにいち早くはせ参じれば、中国当局の評価も高まり、事業拡大の行政手続きも円滑になるだろう。しかし、中国に投資すれば、トランプ氏から目をつけられ、自動車に高関税をかけられるリスクもある。中国の誘いを断れば、再びメンツを潰すことになりかねない。トヨタは米中貿易摩擦の板挟みになっているとも言える。

週刊朝日  2018年11月23日号より抜粋