95年の日米自動車合意以降、トヨタは対米投資を増やし、この20年間で累計219億ドルをつぎ込んだ。15年秋には米ケンタッキー工場内に3億6千万ドルを投じ、「レクサスES」の新工場を建設。米国では初となる「レクサス」生産も始めた。

 北米では、開発・生産統括会社内に、トヨタプロダクションシステム・サポートセンター(TSSC)も設けている。「かんばん方式」などを格安で社外に伝授するコンサルティング組織で、11年にはTSSCをNPO化し、社会貢献としての位置づけを強化。米国の病院や自治体などに業務改善を指導している。

 米国でビジネスを円滑に進めるため、トヨタはこうした「配慮」を重ねてきた。

 ただ、米国駐在が長いトヨタOBは「実業家出身で交渉上手のトランプ氏はトヨタに豪速球を投げて、さらに譲歩させる戦術だろう」とみる。豊田社長ら現執行部も、トランプ氏が物品貿易協定交渉で自動車、すなわち自社をターゲットとすることは百も承知だろう。

 トヨタのルロワ副社長が中間決算会見で「北米市場は不透明感がある」と述べたのも、政治課題がビジネスに影響し始めそうなことを認識しているからだ。

 トランプリスクがビジネスに影響を与え始めるなか、トヨタの米国での情報収集能力が落ちていることも課題だ。理由は二つある。

 まずは広報・渉外、金融などの北米本社機能をテキサス州に集約したこと。渉外・調査機能を持つ北米トヨタ社もニューヨークからテキサスに移り、「情報収集の量も質も落ちる」(関係者)と見られている。

 次に、奥田碩氏が社長・会長時代は政治献金も含めて共和・民主両党への配慮が厚く、政権への影響力があるロビイストを取り込んでいたが、最近はこうした政治活動を担う人材が枯渇している点が挙げられる。トランプ氏がトヨタをたたく遠因にもなっている。

 トランプ氏にいち早く会えた日本企業トップは、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長。孫氏と親しいアリババ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏もトランプ氏と面談したが、そのルートを生かして、孫氏はたどり着いたという。

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