「先生、彼女ができました」 皮膚科医が診察室で声をあげるほど嬉しかったワケとは?
連載「現役皮膚科医がつづる “患者さんと一緒に考えたいこと、伝えたいこと”」
皮膚科医の日々の診療はどんなものか。なかなかイメージがつかない人も多いことでしょう。京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が、患者さんとの忘れられないエピソードを語ります。
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私たち皮膚科医は、手術もしますし、内科的な疾患も診ます。皮膚の組織をとって顕微鏡をのぞて診断するのは当たり前ですし、試験管の中のがん細胞を使って抗がん剤の効果を確認することもあります。テレビで取り上げられるスーパードクターのような華々しさはありませんが、患者さんと穏やかに過ごす時間は他の診療科に比べて多いと思います。
そんな日々の診療の中で、私にも忘れられない患者さんが何人かいます。今回は、医者の守秘義務に反さないように、フィクションを交えながら、ある患者さんのお話を紹介したいと思います。
初めてその患者さんを診察したとき、私は戸惑いました。目も合わせてくれないし、あまりしゃべってもくれない。二つ年下の山口さん(男性、仮名)に出会ったのは、医師になって数年がたった20代後半のときでした。
「かゆいです」
私の質問には、口数が少なく、端的に答える姿がとても印象的でした。
山口さんが私の外来を受診した理由はアトピー性皮膚炎。現在、日本にはアトピー性皮膚炎の患者さんが約40万人、全世界では約14億4千万人いると言われています。
ところで、皆さんはアトピーの語源をご存じでしょうか? ギリシャ語でのアトポス(atopos)がもととなり、「奇妙な」「特定されていない」という意味を持ちます。今でこそ、アトピーの病態解明が進んできましたが、ザルツバーガー皮膚科医が初めてアトピー性皮膚炎と命名した1933年は、アトピー性皮膚炎とは文字どおり、えたいの知れない皮膚病と考えられていたのです。
山口さんは顔に赤みが出やすいタイプのアトピーでした。私はまず、顔に対し前医で処方されていたステロイド軟膏をプロトピック軟膏に変更しました。