つまり、医療効果というのは、薬そのものの薬効だけで生まれるものではないということなのです。たとえ薬がインチキな偽薬であったとしても、三つの条件がそろっていれば、プラシーボによる医療効果が期待できます。これをインチキというか、立派な医療と考えるかというのは、医学に対する考え方の違いなのかもしれません。

 ワイル博士はこう言い切ります。

「最高の治療は心身に対する負担が最小で最大のプラシーボ効果を発揮するものである」

 私もまったく同感です。子どもの頃、よく聞いた話なのですが、大戦中、兵士が頭痛を訴えると、軍医は物資不足で枯渇していた頭痛薬の代わりに歯磨き粉を処方したというのです。

 歯磨き粉をしっかり薬包紙に包んで、頭痛薬だと言って渡すと、兵士の頭痛は治まったといいます。薬がない状況でも、しっかり患者さんの頭痛を治してしまう。これこそが名医ではないでしょうか。

 さて、そこでプラシーボと認知症との関係です。私は認知症こそ、プラシーボ効果が重要だと考えています。プラシーボ効果とは、薬効への期待感です。期待感、あるいは信頼感が脳を活性化して、体に対する作用を生み出すのです。何事にも期待感を込めて、信頼感を持って臨みましょう。それが脳を活性化して認知症予防につながるのです。

週刊朝日  2018年11月9日号

著者プロフィールを見る
帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

帯津良一の記事一覧はこちら