「衝撃だった。笑わせようとしていないのに笑ってしまう。普通のことをやるだけでも笑いになるんだと、子どもに気づかされた。だから、この本は私にとって『花伝書』なんです」

 印象に残ったエピソードは、「ポケットにずっと手を突っ込んでいる生徒」。

「朝からずーっとポケットから手を出さない男子生徒がいてね。先生が『手を出しましょう』と注意すると、『先生、ごめん。今日だけは勘弁して』って答える。『何があったの』と聞くと、『朝、お父さんと手をつないで学校に来たの。そのときのぬくもりがまだ残っているから』。それで先生もこう返す。『わかった。今日は仕方ないね』ってね。以来、僕は自分の子どもが小さいときは、ずっと手をつないでいるようにしました」

 駒沢大学に通う現役学生で、同級生らともふれ合う。

「最近の学生は本どころかテレビも見ない。僕がテレビに出ても、『昨日見たよ』なんて誰も言ってくれない。でもツイッターでつぶやくと、『いいねしといたよ』って。僕はテレビが茶の間の中心だった時代を生きたからびっくりしたんだけど、時代が変わった。毎日こっちが若い人に取材してるの。『なんで、なんで?』って。それが楽しいの」

 秋の夜も、人生も長い。気になった本があれば、さっそく読もう。(本誌・大崎百紀、工藤早春、前田伸也)

週刊朝日  2018年11月9日号より抜粋