松井はプロに進んだ後も、正月に帰省すると山下さんの自宅を訪ねた。会うたびに、本を6冊渡したという。

「メジャーリーガーになってからも、高校時代に渡した宮本武蔵の『五輪書』を持ち歩いていると聞き、うれしく思ったものです」

 もう一人の名将、横浜高校野球部前監督の渡辺元智さん(73)の一冊は『置かれた場所で咲きなさい』(渡辺和子)。

 座右の銘は「人間至るところ青山あり」。名門野球部として全国に名をはせる横浜高校だが、選手には野球部という“故郷”を離れてからも大きく成長することを願って、普段からこの故事を語ってきたという。

「この故事は、人はどこにでも骨を埋めるところがある。志を持って故郷を離れ、おおいに活躍すべきだという意味。『置かれた場所で咲きなさい』は、生徒が失敗したときにどうアドバイスするのかにつながる本でした。たとえ野球で花を咲かせられなくても、一生懸命やっていればやがて人生の勝利者になれる。いろんな生きる道があるのです」

 美容家の佐伯チズさん(75)は、『美容全科』(牛山喜久子ほか)と『星の王子さま』(サン=テグジュペリ)、『人を動かす』(D・カーネギー)を挙げた。

『人を動かす』は1937年に発刊された自己啓発本。夫を亡くし悲しんでいた43歳のころ、グアムに住む友人から教えてもらった。

「『自分にはそれをやりとげる力があると信じ積極的に行動する』という言葉が心に響きました。人の過去は変えられないし、もう自分を変えなければいけないと思っていたころでした。この本に出会い、亡くなった主人の代わりに助言を得るようになって、救いとなりました。新成人にはこの本と『青春とは』(サミュエル・ウルマン)の2冊を贈っています」

 最後はタレントの萩本欽一さん(77)。

『小さいサムライたち』(吉岡たすく)は、全国の小学校の先生が子どもたちとの会話を集めた本だ。コント55号で60年代後半に人気になったが、「このままの笑いじゃあ、そのうちだめになる」と悩むようになっていた。そんなころ、弟子の車だん吉さんに薦められた。

次のページ