「だからあんなに素晴らしい文章なんだと改めて感動しました。司馬作品では『峠』も好きです。『多くの書物を読むより一冊一冊を刻むように読んだ』という主人公の一節があって、そういうふうに本を読むのっていいなと思わせてくれました」

 読書の魅力については、こう語る。

「どんな本でも、読めば血となり肉となる。知らない世界に連れていってくれる。無駄になるものなんてない。だから人生を豊かにしてくれるんです」

 ほかにも2冊挙げる。『武士道』(新渡戸稲造)と『葉隠入門』(三島由紀夫)だ。ともに、私利私欲を捨て人のために生きる武士道の美しさが描かれている。

「そういう生き方で、自分自身の“背骨”を作りたいと思っています。『武士は食わねど高ようじ』、この言葉を覚えておくように幼いころ父から言われました。小学校高学年のころ、クラスで配られていたチョコレートが足りなくなったとき、『俺はもう食べたからいらない』と言えた記憶がある。自己犠牲ができるのならば、後悔のない生き方になると思っています。それをこの2冊の本から学びました」

 東出さんはほかの三島作品も大好きだ。最後の長編小説『豊饒(ほうじょう)の海』は今秋、舞台化され、主演を東出さんが務める。

「彼が描きたかった世界をできるだけ再現したい。奮い立ちます」

(本誌・大崎百紀、工藤早春、前田伸也)

週刊朝日  2018年11月9日号より抜粋