「戯曲を読んで、トマス医師が“正義の人”というより、むしろ差別意識の強い、面倒くさい人に描かれていることが興味深かったです。トマスには共感した部分も多々あるけれど、僕ら役者は、必ず“自分が逆の立場だったらどうするだろう?”とも考えるので……。この戯曲も、登場人物全員が、それぞれの立場で正当性を主張していて、誰もが自分は正しいと思っている。人間が、自己を正当化していく意識の恐ろしさを痛感しました。難解なテーマではあるんですが、評判が口コミで広がっていくような、そんな舞台になればいい。昔、僕が演劇を始めたばかりの頃は、200人も入ればいっぱいの劇場が、初日はガラガラ(笑)。でも評判が口コミで広がって、千秋楽にはチケット売り場に長蛇の列ができたなんてこともありましたから」

 最近、テレビで愛媛の漁師たちのドキュメンタリーを観て、そのシワを強烈に“美しい”と思った。

「潮に打たれて刻まれた深いシワを見て、老いることは美しいと思った。自分も、こんな年の取り方ができるんだろうか。中途半端に生きてはいないか、と。シワには生き様が出るのだとしたら、いいシワを刻んでいきたい。しみじみそう思いました」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2018年11月9日号