「痛みがなく、日常生活で困っていることがないなら急いで手術をする必要はないと考えます。ただ、痛みが強い状態をあまりガマンするのも患者さんにとってはよくないと思います。夜間に痛みで目が覚めるようなことが増えたら、手術を考える時期といえるでしょう」(岸田医師)

「股関節が痛む場合、立ち上がるときに反対側のひざに力を入れて立ち上がるため、ひざの関節が変形してしまう人がいます。その状態が長く続くと、股関節の手術をしてもひざの痛みが残り、ひざまで人工関節の手術をしなければならなくなることもあります。ほかの関節を悪くする前に手術をする決断も大切です」(近藤医師)

 人工股関節置換術は、ポリエチレンと金属などで構成される人工股関節を入れる手術で、原則として60歳以上で症状の進んだ人が適応となる。いちばんのメリットは、術後の回復が早く、痛みが改善することだ。変形性膝関節症でも同様に人工関節置換術がおこなわれるが、「ひざよりも股関節のほうが、術後の患者満足度が高い」という調査報告もある。

「手術によりどちらも痛みは改善されますが、ひざはやや痛みが残ることもあり、股関節のほうがスッキリ痛みが改善する傾向があります。もうひとつ、動きに関しても違いがあります。ひざは人工関節に入れ替えても正座ができるまでは曲がるようにならないなど、術後も動作を制限されることがあります。股関節は、基本的には術後しっかり回復してからは動作を制限することはありません。日本人は正座をしたり、和式トイレを使ったりとひざを曲げることが多く、ひざのほうが制限を感じやすいことも満足度に関係しているのかもしれません」(岸田医師)

 人工股関節置換術のデメリットとして、術後の感染症など合併症のリスク、人工股関節の摩耗やゆるみ、脱臼などにより再手術(再置換術)が必要になることが挙げられる。100人に1人程度の割合で再手術が必要になる可能性がある。しかし、医療技術の進歩により人工股関節の性能や耐久性は大きく向上しており、耐用年数は20年を超えるといわれ、再置換術も減少している。

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