ピアノを習っていたおかげで、楽譜を読んだり書いたりすることが苦じゃなかった。大学の時には自分で作詞・作曲しては、ひとりで喜んでいました。ここで一つ紹介すると「奈良の夕べに佇んで」という曲は、僕が8歳まで過ごした奈良の田舎の景色を思い浮かべながらつくりました。1番と2番があるんですよ。

(しばし熱唱)

 ハハハ、ほかにもいろんな歌をつくりましたよ。歌いましょうか? あ、もういい? ちょっと話がそれましたが、何でもやってみることは悪くないと思います。やってみて、続かないならそこでいったん見切りをつけたらいいでしょう。続けるにはある程度、尻をたたくことも必要でしょうが、程度が過ぎると苦痛にしかならないし、もしかするとトラウマになってしまうかも。そしたら元も子もないですよね。無理強いはしないほうがいい。基本的には自発性が大事で、子どもが楽しみながらやれることが大切だと思います。

 大人になってから楽器を習い始める人も結構います。もし僕が今から何か楽器を始めるとしたらオーボエとかチェロとかを、やってみたい気がしますね。何だか人生のたそがれをしみじみとかみしめるのにふさわしい音だと思いませんか? これは、大人になってからのほうが味わいがわかる音なんじゃないかな。

 そうやって定年後なんかに、また楽器を始めるかもしれない。その時、楽譜が読めるというだけでも、決してムダではないはずです。

週刊朝日  2018年11月9日号

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前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

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