前川喜平さん。本連載では読者からの前川さんへの質問や相談を受け付けています。テーマは自由で年齢、性別などは問いません。気軽にご相談ください。
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写真はイメージです (c)朝日新聞社
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 文部科学省で事務次官を務めた前川喜平氏が、読者からの質問に答える連載「“針路”相談室」。今回は子どもの習い事に関する40代女性からの悩みに答えます。

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Q:子どもたちに書道や楽器などを習わせています。良い先生に恵まれ、子どもも頑張っており、それなりに成果を上げています。

 でも、私も子どもも、今の習い事が将来の職につながるとは思っていません。芸術を職にするのは狭き門です。だとすると、何のための習い事なのか……。楽器は毎日練習しなければならないし、時間を守って家を出ないといけないし、嫌がる子どもの尻をたたいてやらせる時もあり、時折胸が痛みます。もしかしたら親の自己満足なのではないかと思う時もあります。

 子ども時代に芸術に触れることに、どんな意味があるのでしょうか。効用がわかれば、私も、子どもの習い事との距離感をつかめるような気がします。(神奈川県・45歳・女性・国家公務員)

A:これからのAI時代を考えると、僕は、芸術こそが人間が学ぶべき中心的分野なのではないかと思います。なぜなら音楽や絵画、演劇やダンスなど、五感を通じて感動をもたらす表現活動は人間にしかできないから。

 今後、AIによって芸術らしきものをつくり出すことはできるようになるかもしれませんが、深く「感性」に訴える芸術は人間にしかつくれない。そう考えると、学校教育にもっと、芸術科目の時間があっても良いと思います。

 芸術は生きる力を呼び起こすものです。だから親は、子どもが芸術に触れる機会をたくさんつくってあげるといいと思います。習い事だって、一見、時間やエネルギーをムダにしているように思えても、長い人生で考えれば得るものは多いはずです。

 僕もピアノを小学1年から5年くらいまで習っていました。結局ものにならず、自分から親に「やめさせてほしい」と言ってやめたんですが、ムダではなかったと思う。まあ、仕事の上ではそう役にも立ちませんでしたが(笑)。

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前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

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