私はテレビの世界でそれを最も体感した人間のひとりです。私が在学していた当時も、すでにそこまで特別なものではなくなっていた『慶応ブランド』に、よもや30歳を過ぎてこんなにも恩恵を受けるとは思ってもいませんでした。何が凄いのかは分からなくても、とりあえず「一流!」「優秀!」「もったいない!」といった単純明快なリアクションに繋がる「慶応卒」の三文字は、女装したオカマにとって、踊ったり歌ったりするよりも遥かに有効な芸でありキャッチーなネタだったのです。もし私が慶応を出ていなかったらこの週刊朝日の連載もなかったでしょうし、頑張って卒業してよかった。

 ちなみに、私の『慶応卒』がネタとして成立した背景には、この国の『肩書&キャッチフレーズ至上主義』の激化があります。ジャンルやカテゴリーは多様化し、クオリティや技術は進化する一方で、人も物も事象も歴史も、本質はおろか“あらすじ”さえ見る気がないのが今の世の中です。「売れる本は目次で決まる」とか「サビから始まらない曲は売れない」なんて鉄則が蔓延し、イケメンや一発ギャグや格言が乱立し、勝負の決め手はSNS映えするかどうか。そう考えると、実はその長い歴史において、今ほど『慶応ボーイ』の肩書が有効な時代はないのかもしれません。JUNONボーイしかり。

 それはそうと、慶応と海外旅行は似ています。昔は『憧れ』を含んだ特別感がありましたが、今となっては誰だって手の届くカジュアルな存在。だけどその言葉を聞くと条件反射で「すごーい!」と言ってしまう。さしずめ『ミスター慶応』なんて、格安弾丸ツアーに行きまくる自撮りの達人みたいなものです。もちろんそんな人たちばかりではない良い学校ですよ。あと、正しくは『慶応』じゃなく『慶應』です。

週刊朝日  2018年11月2日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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