差別と偏見が助長する愚かさ…深緑野分の新作に現代の日本を見る

週刊朝日#読書
 文芸評論家・末國善己氏が選んだ“今週の一冊”は『ベルリンは晴れているか』(深緑野分、筑摩書房 1900円)。ナチス・ドイツの支配から解かれたベルリン。両親を亡くすも生き延びたドイツ人の少女が、恩人の死を解決する旅に出る――。

*  *  *
 米軍の兵士兼コックが、第2次大戦末期の最前線で起きた奇妙な事件に挑む『戦場のコックたち』は、直木賞の候補になるなど高く評価された。その姉妹編的な本書は、権利と自由を奪い、差別と偏見を助長する戦争の愚かさに切り込むテーマが、前作以上に際立っている。

 ナチス・ドイツが敗北し、首都のベルリンは米ソ英仏に共同統治された。1945年7月、英語が敵性語とされた戦時下に、ケストナー『エーミールと探偵たち』の英訳本で英語を学んだドイツ人の少女アウグステは、語学力を活かし米軍の兵員食堂で働いていた。ある日、アウグステは、米軍憲兵隊に連行され、ソ連のNKVD(内務人民委員部。諜報機関として有名なKGBの前身)のドブリギン大尉に引き渡される。

 道を歩くと、足に瓦礫となったコンクリートなどの感触が伝わる。夜になると灯火管制時の目印だった蛍光塗料が怪しく緑色に光り、住む場所を失った人々が悪臭を放つ劣悪な環境で暮らす。著者は、圧倒的な情報量と五官すべてに訴える描写で、戦争で破壊された街を活写しており、当時のベルリンに迷い込んだかのような錯覚を覚えるのではないか。

 ドブリギンは、音楽家のクリストフが、アメリカ製の歯磨き粉に仕込まれた毒で殺されたとアウグステに告げる。クリストフと妻のフレデリカは、戦時中に両親を亡くしナチスに追われていたアウグステを匿(かくま)ってくれた恩人だった。米英ソの首脳が集まるポツダムへ行き、クリストフ殺しの容疑者とされるフレデリカの甥エーリヒを捜せと命じられたアウグステは、ドブリギンが用意した泥棒でユダヤ人だというカフカを相棒に旅立つ。

 ポツダムへ向かうアウグステとカフカは、ホームレスの少年ヴァルターとハンスに出会い行動を共にする。この展開は、鉄道の中で大金を盗まれたエーミールが、ベルリンの少年たちの助けを借りながら犯人を追う『エーミールと探偵たち』へのオマージュだろう。

続きを読む

TwitterでAERA dot.をフォロー

@dot_asahi_pubさんをフォロー

FacebookでAERA dot.の記事をチェック