思い出されるのは、入学間もない時期に野球部で焼き肉を食べたときの逸話だ。西谷監督を前にして、根尾は網の上に肉を整列させ、丁寧に裏返し、焼け具合を確認。それを見た西谷監督は「肉はこうやって焼くんだ」とばかりに、網の上の肉をぐちゃぐちゃにした。

 何事にも几帳面(きちょうめん)な根尾の前に立ちはだかった関西のノリ。以前、同校の有友茂史部長はこう話していた。

「関西弁を教えることからスタートしました(笑)。素直な良い子なんですが、すべてを理詰めで考えようとするきらいがある。プロに進んだ先輩の例をあげ、もうちょっと感覚的な部分も大事にしたほうがいいんじゃないか、と伝えました」

 当初はカルチャーショックを受けた根尾も、いつしか強面ながら冗談を絶やさない有友部長のジョークに、ツッコミを入れるようになってゆく。

 入学以来、甲子園に4回出場。うち3回優勝したのだから、根尾にとってこれ以上、望むべくもない高校野球生活だったはずだ。

「もっとやれた、という思いが強いです。入学前は全部うまくいく(優勝する)と考えていたので、現状とは差がある。技術、フィジカル、考え方……すべてですね」(根尾)

 10月25日のドラフト会議では、世代ナンバーワン球児として、最多の指名が予想される。国民体育大会・硬式野球を終えた直後、根尾はプロの印象について、こんな言葉を残している。

「ミスのない世界。弱い者はすぐ排除される世界。息の長い選手になりたい」

 厳しい競争に挑む覚悟は既に決めている。(ノンフィクションライター・柳川悠二)

週刊朝日  2018年11月2日号