労災認定での「過労死等」の定義は3項目ある。「業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡」「業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」「死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害」である。「死亡には至らない~」が含まれるため、「過労死等」と呼ばれる。

 一方、厚生労働省「平成28年版過労死等防止対策白書」によると、脳血管・心臓疾患の労災支給決定(認定)件数は2002年度以降、200~300件台で推移しているのに対して、精神障害は2012年度に急増し、以降、400件台が続いている。このうち2015年度までの4年間の死亡、すなわち「過労死」の件数は、精神障害が100件弱で推移しているのに対して、脳血管・心臓疾患は、2015年度の96件を除き、120件を超えていた。すなわち「過労死等」全体では精神障害が多めだが、「過労死」に限ると脳血管・心臓疾患によるケースが多めとなっている。

 脳血管・心臓疾患のなかでも、過労死等の原因として多いのは脳内出血・くも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、解離性大動脈瘤などである。男女別では圧倒的に男性に多く90%以上を占め、発症・死亡年齢で多いのは40歳代、50歳代である。脳血管・心臓疾患で過労死にまで至る女性は少ないが、原因疾患では、女性にはくも膜下出血が多いことが特徴である。長時間労働のほか、不規則勤務・交代勤務なども過労死等の引き金になりやすい。

 これらの過労死の現状を踏まえ、働き盛りのうちに脳血管・心臓疾患で命を落としてしまわないための、和田医師のメッセージは次のとおりである。

「過労死等の予防には、せめて、毎日、6時間以上の睡眠時間を確保することです。眠る時間もままならないようでは、健診で異常を指摘されても高血圧や糖尿病の治療もされず、脳血管や心臓の病気のリスクを高めることになります。今すぐできることは、毎年の健康診断は必ず受け、異常を指摘されたら食事・運動習慣の見直し、受診を指示されたら必ず受診して治療を継続することです」

(文/近藤昭彦)