過労死等の予防には、せめて、毎日、6時間以上の睡眠時間を確保すること(写真/getty images)
過労死等の予防には、せめて、毎日、6時間以上の睡眠時間を確保すること(写真/getty images)

 過労死というと、最近の報道などにより長時間労働や職場環境のストレスなどによる「精神障害」から自殺に追い詰められるイメージが強いのではないだろうか。過労死の引き金には、もう一つ「脳血管・心臓疾患」も認定されている。11月は「過労死等防止啓発月間」。「過労死等」の背景や現状を、過労死対策に取り組む産業医に取材した。

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 過労死は医学用語や病名ではなく、社会的に認知された事象として作られた言葉であり、国の労災補償として救済する制度がある。過労死の言葉が使われるようになったのは高度経済成長時代であり、働き盛りの人が、急に亡くなり、その背景に長時間労働や業務上の強いストレスがあったことが医師や研究者に認識された。

 産業保健が専門で過労死に関しての論文も多数ある、国際医療福祉大学医学部教授(公衆衛生学)の和田耕治医師は過労死の基準について次のように解説する。

「過労死の基準となる時間外労働時間(週40時間を超えた労働時間の累積)は、死亡する直前の1カ月が100時間超、あるいは2~6カ月の平均が80時間超となっています。この基準を定める際には、さまざまな議論がありましたが、科学的根拠が十分にある状況ではありませんでした。そのなかで、平均睡眠時間が1日6時間未満になると死亡リスクが高まるという研究結果などをもとに、6時間以上の睡眠時間を確保するためには、1日の労働時間は何時間以内に収めないといけないかなどを考慮して、これらの基準が決まったと言われています」

 過労死と過重労働の因果関係の科学的な根拠が得られにくい背景はこうだ。

「時間外だけで1カ月平均80時間も100時間も働くことができるのは、ある意味“健康”な人だったりもします。もちろん労働時間だけでなく、さまざまな職場の要因が心筋梗塞などの発症に関連すると考えられます。これらを考慮して、疫学研究として、時間外労働の時間が、心筋梗塞や脳梗塞の発症や死亡にどのような影響があるかを示すことは難しいのです。最近は、以前より時間外労働を減らす取り組みが進んでおり、こうした研究をすることも難しくなり、科学的根拠が得られにくくなっています。欧米では、週の時間外労働時間が55時間を超えると心筋梗塞のリスクが高まるという報告もありますが、欧米の結果を単純に日本に当てはめることにもさまざまな議論があります」(和田医師)

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労災認定の定義は…