林:あの方、すごいなと思ったのは、映画の最初は動きも若いのに、年を取ると背中が丸まって小さくなっていって。そして水指を置くときの動作は間違いなく茶人でした。樹木さんもお茶は初めてですって?

黒木:そうおっしゃってました。「私はあなたたちより練習してない」とおっしゃっていたんですけど、原作者の森下さんが言うには、「私の先生の武田先生と似ている。お会いしてないはずなのに、似てるたて方をしている」って。樹木さんってほんとにすごい人なんだなと思いました。

林:いろいろお話ししたんですか。

黒木:少しだけ。撮影中はご自分で車を運転されてきて、それがトヨタのオリジンというクラシックカーみたいな車で、「カッコいいですね」と言ったら、「私は周りにカッコいいものしか置かないようにしてるの」とおっしゃってました。

林:私はこの映画を見て、いろんな監督さんがそろって黒木さんを起用したいと思う気持ちがわかりました。静の演技とか、アップのうつむいた表情とかすごくきれいで、それだけでいろんなことが表現できる方だなと思って。だからお茶のシーンなんかぴったり。

黒木:うれしいです。

林:ニキビが残っていそうな20歳の女の子から、中年に近づいていく感じが、見た目や髪形をすごく変えたわけではないのに、表情と動きだけで表現されていて。

黒木:よかったです。40代を表現するのがいちばん難しかったです。

林:「お茶っていいな」とみんなが思うんじゃないですかね。

黒木:私もそう思いました。やってみる前は格式が高くて縁遠いものだと思っていたんですが、始めてみるとおもしろくて。掛け軸の見方ひとつとっても、教えてもらった上で見てみると「おもしろいな」って思いました。

林:お茶の世界は美術品のことを知っていないといけないですもんね。お茶碗が出て「これは何々です」と言われると、「14代目のナンタラカンタラですね」とか、「お軸は何とか」って言われると、「先々代のお家元の……」だとかと言わなきゃいけないし。

黒木:今回、撮影で使わせていただいたお茶碗も、なかなか外に出せないものらしいんです。それを私が包むように持って「リスみたい」って言うセリフがあるんですけど、ほんとにリスっぽい軽さがあるんです。ほんものに触れさせていただいてラッキーだなと思いました。

林:お茶、これからも続けようと思ってます?

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