「ご飯が炊きあがる原理は、じつはアナログな技術です。電気で水とお米を入れた釜を温め、温度が上昇し水がなくなると自動的にスイッチが切れるというバイメタル温度検知スイッチを使ったもので、誰でも、手間をかけずに同じ炊きあがりになります」

 当初、世間の人々は自動式電気釜に対し半信半疑だったが、実演販売で炊かれたご飯を食べると、次々に売れていった。発売開始した昭和30年の8年後には日本の全家庭の約半数に東芝製の自動式電気釜が普及した。

「現在はマイコンなどの電子部品が搭載されていますが、基本的には当時の技術が使われています。技術者が使いやすさを一番に求めた結果、技術の高さを生み出しているのです」

≪音楽を外で聴くソニー「ウォークマン」≫

「『ウォークマン』の始まりはソニー創業者の一人、井深大(まさる)個人のために作られた再生専用のステレオポータブルカセットプレーヤーの試作機だったのです。それを試してみたもう一人の創業者盛田昭夫が、これは大きなマーケットになると直感し、製品化を決めました。1979年3月ごろのことでした」

 そう話すのは、ソニー広報・CSR部の岸貴展さん。盛田の宣言で発売日が6月1日と決まったが、開発期間は3カ月しかない。そこで既存の、録音機能がついた小型のモノラルテープレコーダー、プレスマンという製品をもとに開発が進んだ。社内では録音機能がない製品は絶対売れないと大反発があったが、再生専用でステレオの「ウォークマン」は当初の予定より1カ月後の7月1日に発売された。7月末に「月刊明星」に西城秀樹がローラースケートをしながら「ウォークマン」で音楽を聴いている写真が掲載されたことなどから徐々に知られるようになり、爆発的に売れるようになった。

「それまでのテープレコーダーとは全く違うものなので、最初は使う場面がわからなかったということもあったでしょうね」

「ウォークマン」は音楽を外で聴く文化を生み出した発明品である。

(取材・文/本誌・鮎川哲也)

週刊朝日  2018年10月26日号