舞台のセリフを覚えるのにね、ぶつぶつやってたって覚えられないんだよ。ちゃんと大きな声を出さないとね。あたかも相手と話しているように。台本を見てぶつぶつやったって、頭では覚えられるかもしれないけど、やっぱり舞台でやっているように声を出さないとね。そうしないとセリフは体に入ってきません。演技力っていうのはそうやって、けいこ場で磨くもの。だから家ではセリフの練習なんてしません。

 それと、大事なのは毎日の生活だね。何にでも興味をもつこと。本を読み、あらゆることに目を向ける。テレビの時代になって、役者もバラエティーやいろんなところに引っ張り出されるようになって、僕はクイズ番組にも出ましたよ。要請があればバラエティーにも出ました。舞台の仕事だけじゃ会うこともないアイドルだとか、芸人さんとご一緒するのも刺激になりますからね。

――俳優は役の人生を演じきる一方、俳優の人生もそこににじみ出る。江守が私生活について多くを語ることはないが、過去のインタビューで、結婚前の妻との交際を振り返っていた。2006年「シラノ・ド・ベルジュラック」で忍ぶ恋に身を焦がす主人公を演じた際の、朝日新聞の記事。39歳のときに演じた役を62歳で再演。主人公が抱く恋の喜びと嘆き、役作りについて聞かれたときだった。地方公演に出ると2カ月近くも会えないため、距離を言葉で埋めようと連日手紙をしたためたという。

 生きてきたものが、そのまんま出ちゃうのが舞台。悲しい経験をしたことがない人に、悲しみの演技をさせようとしたって、できないよ、たぶん。でも喜怒哀楽の感情は、みんな持っているはずだよね。

 アドリブは出て当然だと思いますよ。自然な感情がそこにわいてきて、それが言わせるんだったらね。だから、アドリブを作るってわけにいかないでしょ。やろうとしてできるもんじゃない。もともとがね。だからうまくいけば、全部アドリブであるかのような芝居ができたら、それは非常に面白いでしょうね。そういうことができればね。

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