帯津:貝原益軒も「家業に励むことが養生の道だ」と説いています。家業は先祖伝来のものでなくていいので、何かしら働いていることがいいのです。

 私は大ホリスティック医学を提唱して、それに打ち込んでいます。志が高い人が周りに集まってきているのもありがたい。人生が楽しくなってきているんですよ。養生訓のおかげです。

生島:食事など日々の生活の中にはさまざまなリスクがあります。どんなに気をつけていても病気になる人はなってしまう。がんや認知症だってそうですよね。あんまりくよくよしないのと、ほどほどがいい。食べすぎたり、運動しすぎたり、悩みすぎたりは良くない。何ごとも、過ぎたるは及ばざるがごとしです。

帯津:私も70歳ぐらいから今日が最後だと思って生きています。毎日の晩酌もいつも「最後の晩餐(ばんさん)」。患者さんの死に対する恐怖を和らげるためにも、私自身が死に向かい合って生きているのです。

生島:フランスのパリ市の標語で「たゆたえども沈まず」という言葉もあります。人生は荒波の連続で、会社や個人も揺さぶられます。そのときに、なんとかバランスをとって沈まないでおくと、いつかは凪(なぎ)が来る。私は、大変なときほど自分を励ますようにしています。

帯津:死ぬときに自分のエネルギーを最大に持っていきたい。気力は死に向かって衰えていくと思われがちですが、いよいよそのときだと思ったら加速する。あの世はあの世で楽しそうです。先に行っている人がいっぱいいますからね(笑)。死に向かって飛び込んでいけるように、普段から工夫しておく。貝原益軒の養生訓には、そういう知恵が詰まっています。

生島:あの世はあの世で楽しいだろうなと思えば、楽しくなれますよね。死んでしまったら一巻の終わりだと思えばつらい。このままの調子でいけば帯津さんは100歳まではいきそうなので、先生が先か、私が先か、わかりません(笑)。みんな悩みを背負って生きていますが、帯津さんのように笑顔がすてきな人はいない。私も先生の領域に近づきたいですね。

(構成/本誌・多田敏男)

※帯津さんの最新刊『貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意』(小社刊)は10月19日に発売。身近な健康法が満載で、生島さんとの対談の全文も載っています

週刊朝日  2018年10月26日号

著者プロフィールを見る
帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

帯津良一の記事一覧はこちら