1996年に京都で誕生し、メンバーチェンジを経た現在のくるり
1996年に京都で誕生し、メンバーチェンジを経た現在のくるり
くるりの12枚目のオリジナル・アルバム『ソングライン』(ビクターエンタテインメント VICL―64910)
くるりの12枚目のオリジナル・アルバム『ソングライン』(ビクターエンタテインメント VICL―64910)

 くるりの4年ぶりのニュー・アルバム『ソングライン』に聞きほれた。親しみあふれるポップなメロディー。丹念で明快、甘さも加味された岸田繁のヴォーカルの説得力。ざっくりとしたギター・ロックにフォーキーなテイスト。歌とメロディーが際立つ、くるり的展開の王道だ。

【ニュー・アルバム『ソングライン』のジャケット写真はこちら】

 くるりは1996年の結成。高校時代からの音楽仲間だった岸田繁と佐藤征史が、大学時代に音楽サークルで出会った森信行を加えた3人編成だった。インディーズ活動を経て98年にシングル「東京」でメジャー・デビュー。翌年、最初のアルバム『さよならストレンジャー』、2000年にオルタナ色の濃い『図鑑』を発表した。以後、テクノ、ハウスへのアプローチなど、シングル、アルバムを発表するごとに音楽的な変化をみせ、多様なスタイルを実践。クラシックへのアプローチによる『ワルツを踊れ』(07年)なども話題を呼んできた。

 メンバー・チェンジを繰り返し、現在は岸田、佐藤、トランペットのファンファンの3人。

 デビュー20年を経て制作に臨んだ最新作『ソングライン』には、岸田自らが記した詳細な曲目解説が同封されていて、曲作り、音作りの背景が明らかにされている。わかりやすい“歌もの”と実験的な曲の双方に取り組み、最終的には“歌もの”主体のアルバムになったという。

 収録曲の多くは以前に書かれ、すでにライヴなどでも披露され、録音を試みながら、発表するまでには至らなかったもの。別のところで佐藤が語るには、新曲は5曲のみだとか。

 幕開けを飾るのは先行シングルとして発表された「その線は水平線」。岸田が触れているが、ファンの間で人気の高い「ハイウェイ」や「HOW TO GO」に通じる曲だ。

 メロディー展開は前者、パワーコードによるザックリとしたギターは後者に似たミディアム調のロック・ナンバー。シンプルな作りのようでいて、ハルモニウムはじめキーボード群による重層的な分厚いサウンド構成。2010年ごろ、海外での活動やオーケストラとの共演などで多忙を極め、心身ともに疲弊していた時期に書かれたという。奥まったところに位置する穏やかなヴォーカル、自身を鼓舞する歌詞が印象深い。

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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