地球星人の性と生殖に対する違和感が昇華したらどうなるのか……
地球星人の性と生殖に対する違和感が昇華したらどうなるのか……

 小説家の長薗安浩氏がベストセラーを“解読”する。今回は、『地球星人』(村田沙耶香新潮社 1600円 1万9000部)を取り上げる。

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『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した村田沙耶香の最新作『地球星人』の主人公・奈月(なつき)は、<私は、人間を作る工場の中で暮らしている>と考える小学5年生。自分の子宮は工場の部品で、いつか、同じように部品である誰かの精巣と連結して子どもを製造するのだと理解しているのだが、どうしても違和感がつきまとう。自分は魔法少女で、大好きないとこの由宇(ゆう)は宇宙人だから、地球星人たちに無理やり違う誰かと<つがい>にされてしまう……それは嫌だ。

 この世界を人間工場と認識し、できることならその考えに洗脳されたいと願いつつも違和感を拭えない少女が、ではどのように生き延びていくのか。これまでも「性と生殖」をテーマにいくつもの作品を書いてきた村田は、34歳になった奈月を描くことで一つの回答を試みる。

 奈月は31歳のとき、セックスどころか食事すら共にしない条件で結婚。相手は由宇ではなく、やはりこの世界に強烈な違和感を抱いている人物だ。それなりに快適に暮らしてきたが、周囲は、「子どもはまだか」と追いたてる。そんな状況下、2人は長野の山奥にある奈月の父方の実家を訪ね、そこで家守をしている由宇としばらく過ごす。人間工場の監視から逃れるために偽装結婚した夫婦と、生き延びることだけを願ってきた由宇の3人は、ここで<宇宙人の目>をダウンロードされた者として合理的に、0(ゼロ)から生き直す……。

 地球星人の性と生殖に対する違和感が昇華したらどうなるのか、村田はラストで、堂々と吐き気がするほどリアルに描いた。度肝を抜かれた私は、小説の力に痺れてまだ呆然としている。

週刊朝日  2018年10月26日号