一方、50歳代半ばで役職定年になったり、子会社に転籍したりしたBさんがいたとする。「子会社行きだと年収は半分」(野尻所長)、役職定年でも年収は6掛け、7掛けが当たり前だ。50歳代の年収が高い時の生活水準は簡単には下げられず、そして下がった年収が最終年収になるため、目標代替率は高くなってしまう。

 2人の自助努力額はかなりの差が出るはずだ。

 野尻所長によると、フィデリティのアメリカの同僚からは「生活費を83%に減らすのは本人の意向次第ではないのか」と疑問の声が上がったという。

「生活水準は簡単に下げられないから、当初設定の100%にするべきだという議論です。それだけでなく、消費税や医療費の自己負担分など、これからは負担増が目白押しですから、目標代替率はさらに上がっていくと見るのが自然です」

 となると、ますます自助努力額は増えてしまうが……。

 野尻所長は、「3つの掛け算」を老後資金を賄う「対策」を考えるのに使ってほしいという。

「長く働けば退職後生活年数を減らせます。低金利で難しい面がありますが、うまく運用できれば資産を自分で殖やすこともできます。それと私は、大都市に住む人たちに人口50万人規模の地方都市への移住を勧めています。物価の差を考えると、生活レベルを下げることなく生活費を下げられ、結果として目標代替率も自分の意思によって下げられます。一つだけでなく、いくつかを組み合わせれば効果も大きくなります」

 それにしても、欧米で主流とされる計算法に従うと対策が必要になるということは、相当の努力をしないと現在の生活を維持するのは難しいということだ。「人生100年時代」は、それほど個々人の人生に影響を与えそうなのだ。

 繰り返すが、この計算は透明度が高く、個々の家計ごとに必要な具体的金額が出せる。自分の「数字」を出し、秋の夜長に自らの未来図を思い描いてはいかがか。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2018年10月26日号

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首藤由之

首藤由之

ニュース週刊誌「AERA」編集委員。特定社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー(CFP🄬)。 リタイアメント・プランニングを中心に、年金など主に人生後半期のマネー関連の記事を執筆している。 著書に『「ねんきん定期便」活用法』『「貯まる人」「殖える人」が当たり前のようにやっている16のマネー 習慣』。

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