「第3の掛け算は、退職まで年数がある比較的若い人向けのものです。年収の一定比率を資産形成に回して運用すれば、退職後の必要資金を準備しやすくなることを示しています。老後資金が切実になる50代以上の方は、上の二つの掛け算で十分でしょう」(野尻所長)

「3つの掛け算」に出てくる三つの数字、「退職後生活年数」「目標代替率」「資産形成比率」は自分でコントロールすることができる。ただし、一つ厄介なのが目標代替率だろう。

 先に見たように、目標代替率は現役時代に比べてどれぐらい支出が低くなるかを示す比率だ。『定年後のお金』では年収600万円の人を対象に目標代替率は「68%」としている。野尻所長は「一定の年収帯なら、ざっくり7割で間違いではない」と言うが、その算出法を知れば、簡単に自分用にカスタマイズできることがわかる。

「現役時代と退職後の支出を比較すると、退職後は貯蓄する必要がありませんし、年金などの収入も現役時代よりは低くなりますから、税金や社会保険料も下がります。また、総務省の家計調査によると、65歳以上の高齢者の生活費は50歳代後半に比べて約83%に低下しています(2009年)。ですから、最終年収から不要なものを引いたりしていけば、自分の目標代替率が出せます」(野尻所長)

 もう一つ、目標代替率は年収の高低によっても変わってくる。年収が低くなるほど支出を削れなくなるから「100%」に近づき、年収が高くなればなるほど今度は生活に余裕ができるぶん低くなる。こうした傾向も考慮に入れてカスタマイズしてほしい。

 最後に収入である。公的年金は毎年、誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で夫婦のおおよその金額を把握できる。企業年金をもらえる人は、受給できる期間と金額を会社に確認して加えよう。こうして得られた月額の年金受給額に12をかけて年額を求め、それに受給年数をかければ、退職後の受取年金総額がわかる。

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