【文豪の湯宿】若山牧水が友と奇跡の再会を果たした温泉場
文豪たちの作品に登場する温泉宿を訪ねる連載「文豪の湯宿」。今回は「若山牧水」の「ゆじゅく金田屋」(群馬県・湯宿温泉)だ。
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信州上田から上州を横断し、日光に至る「日本ロマンチック街道」は、大正11年に37歳の若山牧水が「みなかみ紀行」で歩いた道のりである。その途上、10月23日に立ち寄ったのが金田屋旅館だった。
<湯の宿温泉まで来ると私はひどく身体の疲勞を感じた。数日の歩きづめとこの一二晩の睡眠不足とのためである。其處で二人の青年に別れて、日はまだ高かつたが、一人だけ其處の宿屋に泊る事にした>
よほど疲れていたのか、すぐに湯に浸かり、就寝したという。そこに訪ねてきたのが同じ社中の林銀次だった。この再会には牧水も、<あまりの奇遇に我等は思はず知らずひしと両手を握り合つた>と書いている。
友との再会は疲れも吹き飛ばしたようで、2人は夜の9時まで語り合い、牧水は落ち鮎の甘味噌焼きを「旨い旨い」と2皿分食べたと伝えられている。酒好きの牧水のことだから、大いに飲み食いしたことだろう。
宿に飾られている直筆の歌は、牧水の青春の不安を表した一首とされている。
<ひかりなき 命のありて 天地に生くとふことの いかにさびしき>
(文/本誌・鈴木裕也)
■ゆじゅく金田屋(ゆじゅくかねたや)
群馬県みなかみ町湯宿温泉608
※週刊朝日 2018年10月19日号

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